完全な不完全

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不完全なけもの


気がつくと、目の前にあるものを見てもいず、また何も考えることもできず、頭に浮かぶのは、暗い夜空と弾け飛ぶ火花。青い空にうっすらと広がる白い雲。風にそよぐ薄紫のよくわからない野の花。凪の海や、昼間の風。夏の寒い朝。冬に窓越しに見つめる冷たい空気。湯気のたちのぼるキッチン。

そんなものがなんの脈絡もなく浮かんでは消える。そこには人は誰もいない。私が無人の世界を見つめているような感覚でしかない。どこかで見たのだろう景色が頭の中を飛び回る。


不完全なけもの


最近買ったアルバムのタイトルだ。マヒトゥザピーポーの音源で、私はかなり楽しみにしていた。けれど、私のこれまで知っている彼の音源とは違っていて、まるでちっとも知らない人の音源のように思った。


ただ、とっても素晴らしいということだけはわかった。呆然としてしまう。歩きながら音楽を聴いている。買い物をしようと歩きながら、誰かに会おうと歩きながら。


でも、意識が音楽に吸い込まれてしまって、何にも考えられずに、およそ無意識に商品を手に取り、まるで考えているかのように商品を見つめていることに気づく。けれど、わたしは何も見てもいないし、何にも考えていない。

なぜなら、頭の中には、前述した風景がとめどなく広がり、新しい角度から見上げてみたり、遠くから眺めてみたりする。時には匂いを思い起こし、感触や、温度を思い出す。


本当なら、もっと気の利いたことを言えば良いのだが、何も言えない。素晴らしいとしか。

とても好きだし、みんなが聴けば良いと思っている。フィジカルは軽くて装丁が素晴らしい。ただ、サブスクでもあるので、聴くことについてはもっと手軽に聴くことができる。


少し大きな音で、またはスピーカーを通して聴いてみてほしい。

不完全なけものとは愛すべき

いきものなんだろう。


誰かにも聴いて欲しくなる。


不完全なけもの

不完全なけもの